サブスクリプション型のビジネスや継続契約が広がり、新規獲得と同じくらい既存顧客の継続が経営指標として重視されるようになっています。一方で、「解約率の計算方法が分からない」「チャーンレートをどの数字で追えばよいのか判断できない」「解約率の下げ方を考えたいが何から手をつければよいか分からない」という声をいただく機会が増えています。本記事では、解約率(チャーンレート)の計算方法と3つの指標の違い、解約の予兆の見つけ方、解約率の下げ方となる改善施策5選を、BtoBの継続契約を想定して解説します。

この記事でわかること
  • 解約率(チャーンレート)の意味と、リピート率との違い
  • 顧客数・売上・ネット売上維持率の3つの計算方法
  • 月次・年次の見方とBtoBで確認したい指標
  • 解約の予兆の見つけ方
  • 解約率を下げる改善施策5選と進める順番

解約率(チャーンレート)とは何か

解約率(チャーンレート)とは、一定期間に解約した顧客または売上が、期初の顧客または売上全体に占める割合を示す指標です。継続率は、この解約率の裏返しとして「1−解約率」で表す考え方が一般的です。

サブスクリプションや保守・運用契約のように継続課金で成り立つビジネスでは、解約率が高いと、新規獲得で積み上げた売上が少しずつ目減りしていきます。穴の空いたバケツに水を注ぎ続けるようなもので、新規獲得を強化しても、解約が多いままでは売上が伸びにくくなります。

クライアント支援の現場では、新規獲得だけでなく、既存顧客の継続・フォローまで含めたマーケティング設計の相談を受けています。新規リードの獲得コストが見合うかどうかは、顧客が何か月継続するかで決まるため、解約率は広告やコンテンツへの投資判断とも直結します。

解約率は、カスタマーサクセスだけの指標ではなく、マーケティング投資の回収期間を左右する経営指標として扱うことが現実的です。解約率から平均的な継続期間を見積もれば、顧客LTV(生涯価値)の計算方法とは|経営に活かす算出と活用のコツで解説している顧客LTVの算出にもそのまま使えます。

なお、商品の購入が繰り返されるかを見る指標はリピート率と呼ばれ、リピート率向上の施策とは?計算方法と7つの改善策を解説【2026年版】で扱っています。本記事の解約率は、購入の繰り返しではなく、契約が続いているかどうかを見る指標です。

解約率の計算方法は?3つの指標の違い

解約率の計算方法は、何を分母と分子に置くかによって、顧客数ベース、売上(MRR)ベース、ネット売上維持率の3つに分かれます。MRR(月次経常収益)とは、毎月継続して見込める契約収益の合計のことです。

指標 計算式 分かること 注意点
顧客数ベースの解約率 期間中の解約顧客数 ÷ 期初の顧客数 契約そのものがどれだけ失われたか(ロゴチャーンとも呼ばれる) 単価の大きい顧客も小さい顧客も1件として数える
売上(MRR)ベースの解約率 解約による減少MRR ÷ 期初MRR 売上がどれだけ失われたか ダウングレードを含めるかを社内で定義しておく
ネット売上維持率 (期初MRR − 解約分 − ダウングレード分 + アップセル分) ÷ 期初MRR 既存顧客だけで売上が増減したか アップセルが解約を隠してしまう場合がある

計算例を示します。期初の顧客が100社、期初のMRRを相対値で100とし、期間中に2社が解約したとします。顧客数ベースの解約率は2社÷100社で2%です。

解約した2社の合計MRRが3だった場合、売上ベースの解約率は3%になります。顧客数ベースの数字と売上ベースの数字がずれるのは、解約した顧客の単価が平均より高かった、または低かったためです。さらにダウングレードが1、アップセルが6あれば、ネット売上維持率は(100−3−1+6)÷100で102%となり、解約があっても既存顧客だけで売上は増えている状態だと分かります。

解約率の3つの指標を比較した図。顧客数ベースは解約顧客数を期初の顧客数で割り、売上ベースは解約による減少MRRを期初MRRで割り、ネット売上維持率はアップセルを加えた既存顧客の売上増減を見るという違いを示す

クライアント支援の現場でよく見られる傾向として、顧客数ベースの数字だけで継続状況を追っていると、大口顧客の解約による売上への影響に気づくのが遅れるケースがあります。指標は1つに絞らず、顧客数ベースと売上ベースの2つを最低限並べて見ることをおすすめします。

解約率の月次・年次の見方とBtoBサブスクで確認したい指標

解約率は、契約形態に合わせて月次か年次かを選び、あわせて開始時期ごとの継続状況も見ることが基本です。月額課金なら月次、年間契約が中心なら更新時点の年次で追うと、実態に近い数字になります。

見方 向いている契約 見るポイント
月次 月額課金・月単位で解約できる契約 利用開始直後の離脱や、施策実施後の変化を早く把握できる
年次 年間契約・自動更新の契約 更新月に解約が集中するため、更新率として年単位で見る
コホート(開始時期別) 顧客の開始時期にばらつきがある場合 契約開始月ごとに何か月後まで残っているかを比べ、改善の効果を確認する

月次と年次の関係にも注意が必要です。月次の解約率が1%で一定だとすると、12か月後に残る割合は(1−0.01)の12乗で約89%となり、年間では1割強の顧客が離れる計算です。月次で小さく見える数字も、年間で見ると影響が大きくなります。

BtoBの継続契約で確認したい指標

BtoBでは顧客数が限られるため、1社の解約で解約率が大きく動きます。顧客数ベースと売上ベースの両方を見ること、契約更新月ごとの更新率を見ること、上位顧客への売上の偏りを把握することの3点が、実務では欠かせません。

当社の支援経験では、BtoBの継続契約は担当者の異動や予算の見直しをきっかけに更新が止まるケースがあり、更新時期の直前だけを見ていては手遅れになることが多くあります。契約期間全体を通じた関係づくりが必要です。

チャーンレートの目安はどう考えるか

チャーンレートの目安は、業種、単価、契約形態、顧客規模によって大きく異なるため、一律の数字をここで示すことは適切ではありません。外部の数字を参考にする場合も、算出方法や対象の前提が自社と同じかを確認する必要があります。

実務では、まず自社の過去の推移を基準にします。平均的な継続期間は「1÷月次解約率」でおおよそ見積もることができ、月次1%なら約100か月です。他社の平均値と比べるより、自社の解約率が上がっているか下がっているかを月ごとに追うほうが、改善の判断に役立ちます。

解約の予兆はどう見つけるか

解約の予兆は、解約の連絡を受ける前に現れることが多く、利用状況、顧客との接点、契約・請求の3つの観点で確認できます。解約の連絡が届いた時点では、すでに社内の稟議が済んでいるケースが多く、そこから引き止めることは容易ではありません。

観点 予兆の例 確認する場所
利用状況 ログイン頻度の低下、主要機能をほとんど使っていない プロダクトの利用ログ、管理画面
顧客との接点 問い合わせや定例ミーティングの減少、担当者の異動・退職 CRM、営業・サポートの対応履歴
契約・請求 更新前の条件交渉、プランの縮小、支払いの遅れ 契約管理・請求のデータ

予兆を見つけるには、顧客ごとの状況を1か所で確認できる状態にしておくことが前提です。CRM(顧客管理システム)への対応履歴の蓄積が有効で、選定の視点はCRMツールの選び方とは|失敗しないための5つの比較視点と基準を解説で整理しています。

当社でも、AIMentionやAIComms を自社SaaSとして運営する中で、契約直後にどれだけ使い始めてもらえるかが継続の分かれ目になると考え、設計上の課題として向き合っています。解約の予兆は、利用の少なさそのものよりも、利用が減り始めたタイミングで接触できるかどうかが重要です。

解約率の下げ方とは?改善施策5選

解約率の下げ方は、導入・活用・更新という顧客ライフサイクルの各段階に、施策を1つずつ配置して考えることが基本です。解約の原因は段階ごとに異なるため、施策を段階に対応させると、手を打つ順番も見えてきます。

解約率を下げる改善施策5選を顧客ライフサイクルに配置したマップ。導入段階ではオンボーディング設計、活用段階では利用状況の可視化と解約理由の構造化、更新段階では更新前のコミュニケーション設計と顧客の声の活用を配置している

オンボーディングで初期の定着を支える

オンボーディングとは、契約した顧客が製品やサービスを使い始め、期待した価値を実感するまでを支援する取り組みです。解約率の改善では、契約直後の初期定着に最も手をかける価値があります。

具体的には、導入後の初回ミーティング、最初に達成してほしい状態の合意、使い方の案内資料の用意などです。顧客の道のりを整理する際は、カスタマージャーニーマップの作り方|実践的なテンプレートと活用事例の考え方が使えます。

利用状況を可視化して早期にフォローする

利用状況の可視化とは、ログイン頻度や主要機能の利用有無といったデータを顧客ごとに把握し、状態の悪化に気づける仕組みを作ることです。前の見出しで挙げた予兆を、定期的に確認する運用に落とし込みます。

顧客が多い場合は、利用状況などから顧客の健全度を点数化し、一定の基準を下回った顧客から優先して連絡する方法があります。顧客が少ない段階では、担当者が毎月の状況を一覧で確認するだけでも効果があります。

解約理由を構造化して集める

解約理由は、自由記述のまま放置せず、分類を決めて記録することが重要です。たとえば、機能不足、活用できなかった、担当者の異動、予算の見直し、他社への切り替えといった分類で残します。

顧客が口にする「価格が高い」という理由は、価値を実感できなかったことの言い換えである場合も多くあります。実務では、解約の面談やアンケートで、価格の背景にある使われ方や期待とのズレまで確認することをおすすめします。

契約更新前のコミュニケーションを設計する

契約更新前のコミュニケーション設計とは、更新の数か月前から、成果の振り返りや今後の活用提案を顧客と共有する流れを決めておくことです。更新直前の連絡だけでは、顧客の判断を変えることは難しくなります。

年間契約が中心のBtoBでは、更新の時期に合わせてこの流れを用意しておくと、更新の意思決定に必要な情報を顧客側で整理しやすくなります。継続的な情報提供の考え方は、サブスクリプション時代のマーケ戦略とは|継続率を高める設計のコツも参考になります。

顧客の声とNPSで期待値のズレを埋める

NPS(顧客の推奨度を測る指標)などで顧客の声を定期的に集めると、解約に至る前の不満や期待値のズレを把握できます。解約した顧客だけでなく、継続している顧客の声も対象にすることがポイントです。

測定と改善の進め方は、NPS(推奨度指標)の測定方法|経営に活かす分析と改善の手順とはで解説しています。推奨度が下がり始めた顧客を、解約の前に個別にフォローする運用が現実的です。問い合わせ対応の質を保つ手段としては、カスタマーサポートのAI活用|一次対応・FAQ自動化の実践ガイドも選択肢になります。

解約率の改善を進める順番と注意点

改善は、解約率の計算と解約理由の記録という土台を先に整え、その後にオンボーディングなどの施策へ進むことをおすすめします。数字と理由が分からないまま施策を打つと、効果の確認ができないためです。

状況 優先したい施策 進め方の目安
解約率をまだ計算していない 指標の定義と解約理由の記録 顧客数ベースと売上ベースを月次で記録し、解約理由の分類を決める
初期に解約する顧客が多い オンボーディングの設計 契約直後の利用開始までの流れを見直す
更新時に解約が集中する 更新前のコミュニケーション設計と顧客の声の活用 更新の数か月前から状況の共有を始める

これまでのご支援で見えてきたのは、新規獲得と既存顧客のフォローを別々の担当が別の指標で進めていると、顧客の状況が共有されにくいという点です。解約率の指標を、営業・サポート・マーケティングで共通の指標として持つことが役立ちます。指標設計の考え方は、マーケティングKPI・KGI設計の実践ガイド|失敗しない中小企業の4ステップにまとめています。

注意点として、値引きによる引き止めは、その場では解約を防げても、価値の実感という根本の課題は残ります。また、全体の平均だけを見ていると、特定の顧客層で起きている解約が見えなくなるため、業種や契約規模ごとに分けて確認してください。

まとめ

解約率は、顧客数ベース、売上ベース、ネット売上維持率の3つを使い分けて見ることが基本です。そのうえで、導入・活用・更新の各段階に施策を配置し、予兆の把握と解約理由の記録を続けることで、解約率の下げ方が具体的になります。

新規獲得と継続を一体で設計する場合は、Webマーケティングの観点での見直しも有効です。継続を前提とした設計の全体像は、サブスクリプション時代のマーケ戦略とは|継続率を高める設計のコツもあわせてご覧ください。解約率の改善に向けた指標設計や施策の優先順位付けについては、当社へのご相談もご検討ください。

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よくある質問

Q 解約率(チャーンレート)の計算方法は?

A

顧客数ベースでは「期間中の解約顧客数÷期初の顧客数」で求めます。売上ベースでは、分子を解約による減少MRR(月次経常収益)、分母を期初MRRに置き換えます。両方を並べて見ると、大口顧客の影響に気づきやすくなります。

Q 解約率の下げ方で、最初に取り組むことは何ですか?

A

まず解約率を顧客数ベースと売上ベースの両方で計算し、解約理由を分類して記録することです。そのうえで、契約直後のオンボーディング設計から着手するケースが多くあります。土台が整っていないと、施策の効果を確認できません。

Q チャーンレートの目安はどのくらいですか?

A

業種、単価、契約形態、顧客規模によって大きく異なるため、一律の目安はありません。他社の数字より、自社の過去の推移を基準に、月ごとに上がっているか下がっているかを追うことをおすすめします。平均的な継続期間は「1÷月次解約率」でおおよそ見積もれます。

Q 継続率と解約率はどう違いますか?

A

継続率は契約が続いている割合、解約率は契約が失われた割合で、顧客数ベースでは継続率が「1−解約率」の関係になります。サブスクの分析では、どちらも同じデータから算出できます。営業やサポートなど部門ごとに指標が異なると議論がかみ合わないため、社内で使う指標を統一しておくことをおすすめします。

Q サブスクの解約率を下げるには、どこから相談できますか?

A

指標の定義、解約理由の整理、オンボーディングや更新前のフォロー設計まで、順番に整理すると進めやすくなります。継続を前提にした設計では、新規獲得の施策と既存顧客のフォローを分けずに考えることが現実的です。継続まで含めた設計については、当社へのご相談もご検討ください。