業務のデジタル化が進むなかで、業務システムを受託開発で作るか、SaaSで導入するかを検討する場面が広がりました。一方で、「自社の業務にSaaSが合うのか分からない」「開発を外注すると費用はどう決まるのか」「スクラッチ開発とSaaSをどう比べればよいのか」という声をいただく機会が増えています。本記事では、導入方法の種類、受託開発・SaaS・パッケージの比較、選定の判断基準、費用の考え方、発注前に開発会社へ確認する点を解説します。

この記事でわかること
  • 受託開発・SaaS・パッケージの違いと比較
  • 受託開発かSaaSかを決める5つの問い
  • 開発を外注するときの費用の考え方
  • 受託開発が向くケースとSaaSで足りるケース
  • 発注前に開発会社へ確認する点

業務システムの導入方法は受託開発・SaaS・パッケージの3種類

導入方法は、開発会社に個別に作ってもらう受託開発、サービスとして借りるSaaS、製品を購入して自社に入れるパッケージの3つです。業務システムとは、受発注や顧客管理、勤怠、経費精算など、日々の業務を処理・管理するための情報システムです。

受託開発とは、発注者の要件に合わせて、開発会社がシステムを個別に開発する形態です。SaaS(Software as a Service)は、インターネット経由で提供されるソフトウェアを、利用料を払って使う形態を指します。パッケージは、製品として販売されるソフトウェアを自社の環境に導入し、設定や追加開発で使う形態です。

スクラッチ開発は、既存の製品に頼らず、ゼロから設計して作る方法です。受託開発の中には既存の部品やフレームワークを組み合わせるものもあるため、両者は完全な同義語とは言えません。ただし、「スクラッチ SaaS 比較」という検索意図では、個別に作る受託開発とSaaSの比較を指す場合がほとんどです。

3つは、どれか1つに決めなければならない選択肢とは限りません。SaaSを土台にして、足りない部分だけを個別に開発する組み合わせも、実務でよく選ばれる形です。導入全体を段階に分ける考え方は中小企業のマーケティングDX戦略|段階別に進めるロードマップとはに、自社で担う範囲と外部に任せる範囲の分け方はマーケティング内製化と外注の判断基準|投資対効果から考える分岐点とはにまとめました。

受託開発・SaaS・パッケージを比較すると何が違うのか

違いの中心は、業務をシステムに合わせるか、システムを業務に合わせるかです。受託開発は業務に合わせて作り、SaaSとパッケージは製品の標準に業務を寄せるのが基本です。

比較の軸 受託開発 SaaS パッケージ
業務への合わせやすさ 自社の業務に合わせて設計できる 製品の標準に業務を寄せる 標準機能に設定や追加開発で調整する
導入までの期間 要件定義から開発まで長くなりやすい 契約後に初期設定で使い始められる 導入作業と設定の期間が必要
費用の構成 初期費用の比重が大きく、保守運用費が続く 利用料が継続して発生する 購入費・導入費と保守費用が発生する
変更・改修 改修として依頼し、見積もりと期間が必要 設定とオプション、提供元の更新に沿う 設定変更が中心で、大きな変更は追加開発
運用の責任 運用保守を含め契約で取り決める 基盤の運用は提供元が担う 自社の環境に応じて自社または委託先が担う
データ・システムの持ち方 成果物の権利と移行方法を契約で決める データの取り出し方法を事前に確認する 自社環境にデータを置ける
向く業務 自社固有の流れや連携が多い業務 経理・勤怠など標準的な業務 業界で共通する業務

業務システムの導入方法3種類を3つのカードで比較した図。受託開発は要件に合わせて個別に作る、SaaSは製品の標準に業務を寄せて借りて使う、パッケージは標準機能を購入して設定で調整する形を、業務への合わせ方、費用の構成、変更の進め方、向く業務の4項目で示している

表の項目は一般的な傾向であり、実際には製品や契約内容で変わります。SaaSでも追加の開発や連携を請け負う提供元はあり、受託開発でも既存の部品を使って期間を短くする進め方があります。表は、候補を絞り込む前の整理として使います。

当社のサイトはWordPressというCMS(コンテンツを管理するための標準の仕組み)を土台にしていますが、記事ごとに関連サービスへの導線と記事末のCTAを出し分ける仕組みは、テーマ側に自社で実装しています。標準の仕組みを土台にして、運用に必要な差分だけを個別に作る形です。業務のどこまでが他社と共通で、どこからが自社の強みなのかを切り分けてから、導入方法を選ぶと、組み合わせの設計もしやすくなります。

受託開発かSaaSかを決める判断基準は業務の独自性と連携先

判断は、業務の共通性、変更の頻度、既存システムとの連携、データとセキュリティの要件、運用体制の5つの問いに分けると整理できます。SaaSの標準機能で足りる問いが多いほどSaaSが向き、受託開発側の答えが複数重なる場合に個別開発が選択肢に上がります。

判断の問い SaaSで足りる目安 受託開発を検討する目安
業務の共通性 経理・勤怠など標準的な業務 自社固有の流れや帳票がある
変更の頻度 製品の更新に任せられる 自社の都合で頻繁に変える
既存システムとの連携 標準の連携機能で足りる 個別のデータ連携が多い
データとセキュリティ 提供元の基準で足りる 自社の基準で管理したい
運用体制 設定を担う担当者がいる 改修を判断する担当者と予算がある

受託開発かSaaSかを決める5つの問いを5段で示した図。業務の共通性、変更の頻度、既存システムとの連携、データとセキュリティ、運用体制の順に、SaaSで足りる目安と受託開発を検討する目安を並べ、下部に結果の読み方を示している

5つの問いは、すべてが一方に揃わなくても使えます。受託開発側の答えが1つだけなら、SaaSの設定やオプションで補えるかを先に調べます。受託開発側の答えが複数重なる場合は、要件を整理して開発会社に見積もりを依頼します。迷ったときは、受託開発側の答えがいくつ重なるかを数えて、SaaSの試用から始めるか、要件の整理から始めるかを決めるのが現実的です。

判断の前に必要なのは、業務の流れの整理です。IPA(独立行政法人情報処理推進機構)「ユーザのための要件定義ガイド 第2版」(2019年12月20日更新、2026年10月23日閲覧)によれば、システムの要件を定義する責任は、構築したシステムを使って事業に貢献するユーザー側にあると言われており、業務部門のユーザーが主体的に関与する進め方が示されています。SaaSを選ぶ場合も、開発を外注する場合も、業務側の整理が出発点になります。

当社では、Webサイトの制作に着手する前に、ターゲット・提供価値・ゴールを言語化します。業務システムの導入でも、機能の一覧より先に目的を言葉にしておくと、比較の軸が定まります。要件のまとめ方の考え方はWebサイト制作の要件定義|発注前に決めておく7項目とRFPへのまとめ方が参考になります。

SaaSを比較する際の観点は、CRMツールの選び方とは|失敗しないための5つの比較視点と基準を解説にまとめました。顧客管理に限らず、機能、連携、サポート、運用の負担を並べて比べる方法は共通して使えます。

業務システムの開発を外注するときの費用の考え方

比較する単位は、初期費用ではなく、使い続ける期間を含めた総額です。受託開発は初期費用の比重が大きく、SaaSは利用料が継続して発生する構成が一般的で、3〜5年程度の期間で並べると差が見えます。具体的な金額は案件の範囲で大きく変わるため、本記事では書かず、費用の構成と確認点を整理します。

費用の区分 受託開発 SaaS 見積もりで確認する点
初期費用 要件定義、設計、開発、テスト、移行 初期設定、データ移行、研修 どの工程までが含まれるか
継続費用 保守運用費、サーバー費用 利用料(ユーザー数や機能段階に応じる) 増減の条件と、値上げ時の取り決め
変更時の費用 改修の都度、見積もり プラン変更、オプション追加 軽微な変更の扱いと、見積もりの基準
連携の費用 連携先ごとの開発 標準連携の範囲と追加費用 連携先の仕様変更への対応範囲
社内の工数 要件整理、確認、テスト、教育 設定、運用ルールづくり、教育 自社の担当者に求められる時間

見積もりは、金額の大小より、何が含まれていて何が含まれていないかを揃えて比べます。開発会社ごとに前提が異なる見積書は、そのままでは比較できません。工程ごとの内訳、保守の範囲、改修の単価の考え方を、同じ項目で書き出してもらう方法が有効です。

社内の工数も、費用の一部として見積もります。要件の整理、画面の確認、受け入れテスト、現場への説明は、受託開発でもSaaSでも発生します。費用の比較は、外部に払う金額に社内の工数を加えた総額で行うことをおすすめします。

なお、AIを使った業務の効率化も同じ考え方で整理できます。進め方は中小企業のAI導入ロードマップ|3年計画で進める5つのステップとはをご覧ください。

受託開発(スクラッチ)が向くケースとSaaSで足りるケース

受託開発が向くのは、業務そのものが自社の競争力の源泉で、標準に合わせると強みが損なわれるケースです。既存システムとの個別連携が多い場合や、自社固有の承認フロー・帳票が業務の中心にある場合も、受託開発の検討対象になります。

SaaSで足りるのは、経理、勤怠、経費精算、顧客管理など、他社と共通する部分が大きい業務です。標準機能に業務を合わせることで、導入期間を短くでき、基盤の運用や機能の更新を提供元に任せられます。経理などの定型業務は、SaaSの標準機能にAI機能を組み合わせて足りる場合も多くあります。活用の考え方は経理・バックオフィスのAI活用ガイド|中小企業の業務効率化ステップに整理しました。

当社は、AIMention(AI検索での自社ブランドの引用・言及を計測するSaaS)とAIComms(営業DXとリード獲得を支援するAIチャットボット)の2つのSaaSを自社で開発し、運営しています。提供する側の立場でもあるため、SaaSの利点は事実として示します。一方で、当社はプロダクト開発として業務システム開発も承っており、受託開発側にも立場があります。そのため、本記事ではSaaSで足りる場面を先に挙げ、受託開発が向く条件は業務の側から書きました。

当社でも、検索流入の確認にはSearch Consoleのクエリデータを月次で見ています。標準のサービスで足りる領域は、既存のサービスを使う形にしています。標準で足りる領域はSaaSに任せ、自社の強みに直結する部分にだけ個別開発の予算を使うという切り分けが、費用の面でも運用の面でも無理がありません。

SaaSそのものを新規事業として立ち上げる場合は、判断の軸が異なります。最初の範囲の決め方はSaaS立ち上げで最初に決めること|MVPの範囲と検証設計・最初の顧客の獲得で扱っています。

開発会社に確認する点は契約・体制・変更対応・運用の4区分

発注前に確認するのは、契約の形態、開発と確認の体制、変更の扱い、完成後の運用の4区分です。見積書の金額より先に、この4区分で開発会社の考え方を聞いておくと、後から食い違いが起きにくくなります。

契約の形態では、成果物の完成に対して対価を払う請負契約と、業務の遂行に対して対価を払う準委任契約のどちらを、どの工程に使うかを確認します。IPA「情報システム・モデル取引・契約書(第二版)」(2026年9月11日更新、2026年10月23日閲覧)によれば、受託開発(一部企画を含む)を対象とするモデル契約で、第二版の見直しポイントには、プロジェクトマネジメント義務及び協力義務と、システム開発における複数契約の関係が挙げられています。工程を分けて複数の契約を結ぶ場合は、契約ごとの責任範囲を事前に書面で押さえておきます。

体制と確認では、発注者側に求められる役割から尋ねます。要件の決裁、資料の提供、画面の確認、受け入れテストなど、発注者が担う作業は、開発会社の側だけでは進められません。開発会社側の窓口が誰か、担当者が交代したときの引き継ぎはどうなるか、再委託の有無も確認の対象です。

変更対応と運用では、仕様変更の依頼方法と追加見積もりの基準、完成後の保守の範囲、障害時の連絡体制、ソースコードや設計書の権利、データの取り出し方法が確認の対象です。契約の形態と変更の扱いは、見積書の金額と同じ重みで確認するのが基本です。発注先を選ぶ全般の視点はWeb制作会社の選び方とは|見積もりで必ず確認すべき5つの内訳ポイントも参考にしてください。

導入方法を自社で決めきれない場合の相談先

相談先を探す目安は、次の3つのいずれかに当てはまる場合です。業務の流れがまだ整理できていない、SaaSを比べる軸が社内にない、既存システムとの連携が可能かを社内で判断できない、のいずれかです。

相談先を選ぶときは、提供できる選択肢の範囲を最初に質問します。提供元や開発会社によって提案できる範囲が異なるため、得意な領域を踏まえて話を聞くと比較しやすくなります。SaaS、パッケージ、受託開発を並べて比べられるか、費用を総額で示してくれるか、判断の根拠を文書で残してくれるかを確認します。

当社のプロダクト開発では、業務システム開発として、既存業務のヒアリングから運用改善まで伴走しています。

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よくある質問

Q 業務システムは受託開発とSaaSのどちらがよいですか?

A

業務の共通性、変更の頻度、既存システムとの連携、データとセキュリティの要件、運用体制の5つの問いで判断します。経理や勤怠のような標準的な業務はSaaS、自社固有の流れや連携が多い業務は受託開発が向きます。

Q 業務システムの開発を外注するときの費用の考え方は?

A

初期費用だけでなく、保守運用費や改修費、社内の工数を含めた3〜5年程度の総額で比べます。見積書は、含まれる工程と保守の範囲を同じ項目で揃えると比較しやすくなります。金額は案件の範囲で変わるため、個別に見積もりを取ります。

Q スクラッチ開発とSaaSの比較ポイントは?

A

業務への合わせやすさ、導入までの期間、費用の構成、変更のしやすさ、運用の責任の5点で比べます。スクラッチ開発は業務に合わせて作れる反面、期間と費用がかかり、SaaSは標準に業務を寄せる代わりに早く使い始められます。

Q SaaSで足りるかどうかは、どう見分けますか?

A

自社の業務が他社と共通する部分が大きく、標準の連携機能とプランの範囲で運用できるかを確認します。SaaSの試用で実際の業務を流し、足りない点が設定やオプションで補えるかを見ると、判断の根拠が残ります。

Q 業務システムを受託開発にするか、SaaSにするか、判断に迷ったら誰に相談できますか?

A

SaaSの提供元、開発会社、システム選定を支援する会社などに相談できます。SaaS、パッケージ、受託開発を並べて比較してくれるか、総額で費用を示してくれるかを基準に選びます。導入方法の整理については、当社へのご相談もご検討ください。