自社の知見や業務ノウハウをSaaSとして事業化する構想があっても、最初に何をどこまで決めるかで迷う場面は多いはずです。「最初に何を決めればよいのか」「MVPの範囲をどこで区切るのか」「最初の顧客をどう見つけるのか」といった疑問を抱えたまま、開発に着手できずにいるという担当者も少なくありません。本記事では、SaaS立ち上げで最初に決める4つのこと、MVPの範囲の決め方、MVP検証の設計、最初の顧客の獲得方法、立ち上げ後に見る指標を解説します。

この記事でわかること
  • SaaS立ち上げで最初に決める4つのこと
  • 解く課題と最初の顧客の定義の仕方
  • MVPの範囲を決める3つの区分
  • MVP検証の仮説と指標の決め方
  • 最初の顧客の獲得方法と立ち上げ後に見る指標

SaaS立ち上げで最初に決める4つのこと

決めるのは、解く課題、最初の顧客、MVPの範囲、検証の指標の4つです。SaaSとは、ソフトウェアをインターネット経由で提供し、利用期間に応じて継続的に対価を得るサービスの形態を指します。

4つの並びには意味があり、課題と顧客が決まらないとMVPの範囲は決まらず、範囲が決まらないと、検証で何を見るかも決まりません。開発に着手する前に4つを固めておくと、機能を足すか削るかを判断するときの基準が手元に残ります。

決めること 決める内容 決めるときの問い
解く課題 誰の、どの業務の、どんな手間や負担を取り除くか その課題は、今どのように対処されているか
最初の顧客 最初に使ってもらう企業と、買う人・使う人の役割 課題を日常的に抱える担当者に、直接話を聞けるか
MVPの範囲 課題の解決を体験してもらうための最小の機能 この機能がなくても、価値を届けられるか
検証の指標 続けるか見直すかを分ける行動の指標と期間 何がどうなれば、次の段階に進むと判断するか

当社では、Webサイトの制作でも、デザインに着手する前にターゲット・提供価値・ゴールを言語化しています。SaaSも考え方は同じで、画面や機能の設計に入る前に、誰のどんな課題を解くのかを1文で書けるかどうかが最初の確認点です。事業全体の戦略の中でSaaSをどう位置づけるかは、中小企業のマーケティング戦略立案フレームワーク、経営者が押さえる7つの視点に整理しました。

4つの項目が1行ずつ書き出せるかどうかを、開発に進む前の目安にします。

SaaS新規事業で解く課題と顧客の定義

課題は「誰の、どの業務の、何に困っているか」を1文で書き、顧客は買う人と使う人に分けて定義します。説明のための仮の例ですが、「営業担当者が、見積書を作るたびに複数の資料から数字を転記する手間に困っている」という書き方です。

書いた課題が実在するかは、現状の代替手段で確かめられます。表計算ソフトやメール、既存のツールで今どう対処されているかを聞き、その手間が許容されているのか、解決したい水準なのかを見ます。代替手段が見当たらない課題は、そもそも課題として認識されていない可能性を示します。

BtoBのSaaSでは、使う人と買う人が異なるケースが多くあります。現場で使う担当者、予算を決める責任者、導入の可否を確認する情報システム部門など、関わる役割ごとに見る点が違うため、最初の顧客を決める段階で役割を分けて整理します。顧客像の描き方はBtoBペルソナ設計の実務ガイド|作り方とテンプレート活用のコツに、市場の切り方はSTP分析の基本と使い方|中小企業がゼロから実践する3つのステップにまとめました。

当社は、AIMentionとAICommsの2つのSaaSを自社で開発・運営しています。AIMentionはAI検索での自社ブランドの引用・言及を計測するSaaS、AICommsはBtoBのリード獲得に特化したAIチャットボットです。どちらも、マーケティング担当者が日々向き合う課題が対象です。対象にする課題が具体的なほど、MVPで検証する範囲も絞りやすくなります。

MVPの範囲を決める3つの区分

区分は、必ず入れる機能、後から足す機能、作らずに代替する機能の3つです。MVP(Minimum Viable Product)とは、課題を解けるかどうかを確かめるために、必要最小限の機能だけで作る最初の製品を指します。

区分 判断の問い 見積書作成のSaaSを例にした場合
必ず入れる これがないと、課題が解けたか確かめられないか 見積書の作成と出力
後から足す なくても、最初の顧客に価値を届けられるか 過去の見積書の検索、承認の流れ
作らずに代替する 手作業やほかのツールで補えるか 初期データの登録を運営側が代行する

MVPの範囲を3つの区分で示した図。必ず入れる機能、後から足す機能、作らずに代替する機能の3つに分け、それぞれの判断の問いと見積書作成SaaSを例にした具体例を並べ、最初の顧客が課題の解決を体験できる最短の道筋でMVPの範囲を区切る様子を示している

範囲を決めるときは、機能の数ではなく、最初の顧客が課題の解決を体験できる最短の道筋で区切ります。機能を足したくなったときは、手作業や既存のツールで代替できないかを先に確かめるのが基本です。

顧客が数社のうちは、機能の一部を運営側の手作業で代替し、使われ方を見てから自動化する方法もあります。作り込んでから使われないと分かるより、手作業で使われ方を確かめるほうが、修正の負担は小さく済みます。

一方で、BtoBでは、ログインや権限の管理、データの取り扱い、問い合わせの窓口が、機能の多寡にかかわらず最初の顧客から確認される場面が目立ちます。これらは「後から足す」に回せるかを、顧客の業種や扱うデータに応じて個別に判断します。

MVP検証の設計は仮説と指標から

仮説と判断の基準を、MVPを使ってもらう前に書き出しておきます。仮説は「誰が、何に困っていて、この機能によって、どう変わるか」の形で書くと、検証で見る行動が決まります。

検証する仮説 見る行動 判断の基準の置き方
課題がある ヒアリングで、具体的な業務の場面が語られるか 同じ課題を話す企業が、期間内に何社あったかを数える
使われる 初回の利用後に再び使われるか、主要な操作が完了するか 継続して使う利用者の割合を、事前に決めておく
価値がある 利用の継続、導入範囲の拡大、有償利用への意思があるか 有償にする条件を添えて、意思を確かめる
広げられる 紹介や社内での共有が起きるか 最初の顧客から次の顧客につながった件数を見る

指標は、感想ではなく行動で置きます。「便利そう」という声より、再び使われたか、導入範囲が広がったか、有償での利用に進んだかのほうが、次の判断の材料として有力です。マーケティングKPI・KGI設計の実践ガイド|失敗しない中小企業の4ステップの考え方は、検証の指標を絞る場面でも使えます。利用者の満足度を見る場合は、NPS(推奨度指標)の測定方法|経営に活かす分析と改善の手順とはが手がかりです。

MVP検証を仮説、提供、計測、判断の4ステップで示したサイクルの図。仮説と判断の基準を先に書き、MVPを提供して行動を計測し、結果に応じて継続、方向修正、中止のいずれかを決めて次の仮説に進む流れを示している

検証の期間と、継続・方向修正・中止の条件も、先に書いておきます。結果を見てから基準を決めると、どの結果にも理由づけができてしまい、判断が先送りになりがちです。検証の前に、続ける条件と見直す条件を書いておくのが現実的です。

当社でも、AI検索での引用状況は、月次でChatGPT・Gemini・Perplexityなどに質問して記録しています。回答が変動するものは、質問と日付を決めて同じ方法で繰り返し記録すると、動きを比べられます。MVPの検証も、同じ条件で繰り返し記録できる形に整えておくと、判断の材料になります。

SaaSの最初の顧客はどう獲得するか

最初の顧客は、広告で集めるより、課題を持つ相手に直接会って話を聞く形から見つけます。件数が少ない段階では、数よりも、利用状況を深く観察できる関係のほうが検証に役立ちます。

チャネル 向いている場面 注意点
既存の取引先・人脈・紹介 課題を身近に知っている領域で始めるとき 検証の目的を最初に伝え、関係への配慮を保つ
個別のアプローチ 課題を持つ企業を条件で特定できるとき リストの条件を、課題から逆算して決める
コンテンツ(記事・資料) 課題を調べている企業と接点を持ちたいとき 成果が出るまで時間がかかる
展示会・ウェビナー 課題を持つ担当者に、まとめて会いたいとき 当日のヒアリングの設計に準備が必要
広告 顧客像と訴求が固まり、反応を測りたいとき MVPの段階では、訴求の検証用に小さく始める

最初の顧客には、導入時の同席や使い方の支援を手厚くし、フィードバックを受け取る約束を取り付けます。無償や試験導入にする場合は、期間、対象の範囲、フィードバックの方法、有償化の条件を先に合意しておくと、検証の後で話がかみ合わなくなる事態を防げます。最初の顧客は、数を集めるより、利用状況を一緒に見てくれる数社を確保することを優先します。

個別のアプローチを体制として整える方法はインサイドセールス立ち上げの5ステップ|中小企業向け体制構築ガイドに、展示会やセミナーで接点をつくる方法はウェビナー運営の実践ガイドとは|企画から集客までの実践5ステップにまとめました。

当社でも、自社サイトでBtoBマーケティングやAI活用のコンテンツ記事を120本以上公開・運用しており、記事の切り口は、Search Consoleのクエリデータを月次で見て、読者が何を調べているかから決めます。課題を調べている企業との接点としてコンテンツを持つ方法は、プロダクトでも使えます。ただし、MVPの段階で最初の顧客を得る主な手段にするより、並行して育てる位置づけにとどめます。進め方はコンテンツSEOの実践ガイド|BtoB企業が成果を出す型とその手順をご覧ください。

SaaS立ち上げ後に見る指標の優先順位

最初に見るのは、利用の定着と継続です。獲得数や売上より先に、導入した顧客が使い続けているかを確かめます。

指標 意味 立ち上げ期の見方
利用の定着 主要な操作が日常の業務で使われているか 導入しただけで終わっていないかを、顧客ごとに見る
継続率・解約率 期間ごとに、契約が続いているか、終わったか 顧客が少ないうちは、解約した理由を個別に聞く
MRR(月次経常収益) 毎月繰り返し得られる収益の合計 月単位で追い、顧客ごとの内訳も見る
LTVと獲得コスト 1社から得られる収益の総額と、獲得にかけた費用 顧客数が増え、傾向が見えてから使う

顧客が数社の段階では、比率の増減に一喜一憂するより、顧客ごとの利用状況と解約の理由を一件ずつ確認するほうが、次の改善につながります。解約率の計算方法と改善の考え方は解約率の下げ方とは|チャーンレートの計算方法と改善施策5選を解説で、LTVの算出は顧客LTV(生涯価値)の計算方法とは|経営に活かす算出と活用のコツで解説しました。

立ち上げ後の継続率を高める設計は、サブスクリプション時代のマーケ戦略とは|継続率を高める設計のコツで取り上げました。当社は、作ったあとにどう売り、どう伸ばすかまでを含めて、自社プロダクトの運営に取り組んでいます。取り組みの概要はSaaSプロダクト運営をご覧ください。

SaaS立ち上げで迷ったときの判断の起点

決められない原因によって、戻る先が変わります。次の分岐のうち、当てはまるものから確認します。

顧客像を1文で書けない場合は、解く課題と顧客の定義に戻り、課題を話せる企業に直接話を聞くところから始めます。MVPの範囲が広がり続ける場合は、手作業で代替できないかを機能ごとに問い、必ず入れる機能を課題の解決に直結するものだけに絞ります。

検証の数字が横ばいで判断が割れる場合は、指標が行動を表しているかを見直し、検証の期間を区切って継続か方向修正かを決めます。最初の顧客に当てがない場合は、課題を持つ企業の条件を書き出し、既存の取引先から数社に直接話を聞くところから進めます。

自社だけで設計や開発を進めるのが難しい場合は、課題と顧客の定義、検証の指標は自社で持ち、設計・開発・運営の実務を任せる範囲を決める分け方もあります。任せる相手は、公開後の改善まで関われるかも判断材料に加えます。SaaSの設計と開発はプロダクト開発でお受けします。迷ったときは、4つの決めごとのうち、空欄が残っている最も上の項目に戻るのが現実的です。

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よくある質問

Q SaaS立ち上げで最初に決めることは何ですか?

A

決めるのは、解く課題、最初の顧客、MVPの範囲、検証の指標の4つです。課題と顧客が決まらないとMVPの範囲は決まらず、範囲が決まらないと検証で見る指標も決まらないため、この順に書き出していくのが基本です。

Q SaaS立ち上げでMVPの範囲はどう決めますか?

A

機能を、必ず入れる、後から足す、作らずに代替するの3つに分けて決めます。最初の顧客が課題の解決を体験できる最短の道筋を基準に、手作業や既存のツールで補える部分は代替に回すと、範囲が広がりにくくなります。

Q MVP検証では何を見ればよいですか?

A

感想ではなく行動を見ます。再び使われたか、導入範囲が広がったか、有償での利用に進んだかといった行動を指標に置き、検証の期間と、継続・方向修正・中止の条件を、検証の前に書いておくことが大切です。結果を見てから基準を決めると、判断が先送りになりがちです。

Q SaaSの最初の顧客はどう獲得しますか?

A

広告で集めるより、既存の取引先や人脈、紹介を通じて、課題を持つ相手に直接会って話を聞く形が現実的です。件数が少ない段階では、利用状況を一緒に見てくれる数社を確保することを優先します。導入時の支援も手厚くしておきます。

Q SaaS新規事業の立ち上げについて、外部に相談できますか?

A

課題と顧客の定義、検証の指標は自社で持ち、設計・開発・運営の実務を任せる範囲を決めると、外部の力を使いやすくなります。任せる相手には、公開後の改善まで関われるかも確かめます。立ち上げの進め方や体制の整理については、当社へのご相談もご検討ください。